誰も歩いたことのなかった場所、
誰も通ろうとしなかった道。
彼が歩いてきた場所は、
フライフィッシングを生活の糧にするという、
一見、華やかで、多くの人が憧れる世界とは、
やや違っていたように見える。
製品を作る、輸入品を売る、
あるいはサービスを売り物とするのではなく、
ただただ、自分の経験と得た知見を文章にし、講義し、
その原稿料を自分のフライフィッシングを続ける対価としての生活。
彼にとって業としてのフライフィッシングは、
荒れ果てた荒野だったに違いない。
ただただフライフィッシングをして生きる。
日々を野山の中で過ごす。
それしかできなかったと、
本人は言うだろうか。
孤独な歩みであっただろうその道を、
それでも彼は、今日も明日も、
ずっとこれからも鱒釣りへの歩みを
止めることはきっとない。
足取りは軽やかで、一片の曇りもない。
たとえ深い氷雨の霧の日であっても。
Comments